エコサイコロジーの定義と境界 その1

 エコサイコロジーは、一般に受け入れられた明確な定義を持っていない。そのため、(名称の問題の項でも述べたように)エコサイコロジーやそれに近い名称を名のるものであっても、それぞれが持つ定義には相違がみられ、エコサイコロジーとは異なる分野との混同を招くことがある。ヒバード(Whit Hibbard, 2003) は、エコサイコロジーの定義と他の分野との境界に関する問題について論じており、ここでは彼の議論をレビューしていきたい。

 ヒバードは、以下の疑問に答える形でエコサイコロジーの定義を明らかにしようとしている。
エコサイコロジーとは何か、つまりどうのように定義されるのか; エコサイコロジーは「エコロジカル・サイコロジー(ecological psychology)」、「サイコエコロジー (psychoecology)」、「エコセラピー (ecotherapy)」、「グリーン・サイコロジー (green psychology)」と同じなのか;エコサイコロジーは「環境心理学 (environmental psychology)」とどのように違うのか;エコサイコロジーは心理学の新しい下位区分(subdiscipline) なのか。

 まず始めにエコサイコロジーの提唱者であるセオドア・ローザック(Theodore Roszak)によるオリジナルの定義からみてみよう。1992年の著作『The voice of the earth』でローザックは初めて“サイコロジー(心理学)”に“エコ”の接頭語を付け、それには「心理学のエコロジー化(ecologizing psychology)」と「エコロジーの心理学化(psychologizing ecology)」という2重の目的があると宣言している。ローザックは一つめの目的に関して、もし心理学が環境危機に対して建設的な影響を与えるのならば、従来の心理学の理論と実践をエコロジカルな文脈で捉え直すことが必要不可欠だと主張する。二つめの目的に関しては、環境保護運動も「新たな心理的感受性」を必要としており、いかにして私たちの環境破壊的な行動を変えようという気にさせるのかなど心理学に学ぶべきことが多いと述べる。それから3年後の1995年に出版されたアンソロジー『Ecopsychology: Restoring the Earth, Healing the Mind』の中で、ローザックは次のように述べ、独自の定義を強化している。
エコサイコロジーは、この心理学的なもの(ここには心理療法的なものや精神医学的なものも含めようとしている)と生態学的なものとの新たな統合に対して最もよく使われる名称である。…[他にもいくつかの名称が提案されているが]名前は何であれ、エコロジーは心理学を必要とし、心理学はエコロジーを必要とする、という基本的前提は同じである。1

つまり、ローザックにとって、エコサイコロジーとは、心理学的なものと生態学的なものとの新たな統合(the emerging synthesis of the psychological and the ecological)である。


〈註〉
1. Roszak 1995, pp.4-5.


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