エコサイコロジーの定義と境界 その3

エコサイコロジーの定義と境界 その1
エコサイコロジーの定義と境界 その2


 次に、エコサイコロジーと「環境心理学(environmental psychology)」にはどのような違いがあるのかをみてみよう。名称の問題の項でも述べたように、両者はその名称から混同されることがあるが、それぞれの定義は異なり、別の分野であると捉えなけらばならない。


 キドナー(David W. Kidner, 1994)によると、環境心理学とは「主としてストレス、公害、騒音、都市化、過密化など、特定の環境要因が個人に与える影響に関するものである」。6 一方、エコサイコロジーの一番の関心事は、人間が環境に与える影響であり、正反対である。メツナー (Ralph Metzner,1999)はこの点を次のようにまとめている。「エコサイコロジーは、主に制度的環境が心理状態に与える影響を扱う環境心理学の変種ではない」7 また、フィッシャー(Andy Fisher, 2002)は、エコサイコロジーは環境心理学が持つ従来の科学的世界観や方法論、技術主義的な精神、人間中心主義に異議を唱えるものであり、環境心理学よりもさらに急進的であると述べている。ローザックは自身のエコサイコロジーの定義に関する最近の議論の中で、「“環境心理学”と呼ばれる十分に発達した分野」を知ってはいるが、環境保護論者と心理学者との対話を支えるには不十分であると述べている。なぜなら、環境心理学の関心は「都市生活の建築的環境であり、私たちの自然からの疎外に関して言えば、それは解決というより問題である」。8

 次に挙げる環境心理学の3つの文献のレビューも、キドナー、メツナー、フィッシャー、ローザックによる評価を支えるものになるだろう。例えば、ストコルスとアルトマン(D. Stokols & I. Altman, 1987)は環境心理学を「社会物理的環境との関係における人間の行動と幸福(well-being)の研究」と定義している。9 ベルら(P. Bell et al, 1996)は、環境心理学の主要な関心は「行動や心的状態への決定要因や影響力としての環境」であると述べている。10 また、ギフォード(R. Gifford, 1997)は「私たちの自然環境との関係を改善することや…自然資源の管理」11 に関心を示してはいるが、環境心理学を「個人と物理的環境との相互作用の研究」と定義している。12 これら3つの文献は環境心理学を従来の科学的パラダイムに確固として位置づけ、基本的前提に深い問いを投げ掛けたり、それに挑もうとしていない。これはエコサイコロジーの姿勢と正反対であるといえる。しかし、環境心理学がエコサイコロジーにとって何の重要性も持たないということではないし、実際、多くの学ぶべき研究がなされており、両者の相補的な発展が期待できるであろう。


〈註〉
6. Kidner 1994, p.368
7. Metzner 1999, p.183
8. Roszak 1992/2001, p.323
9. Stokols and Altman 1987, p.1
10. Bell et al. 1996, p.4
11. Gifford 1997, p.1,4
12. Gifford 1997, p.1


0 件のコメント: