はじめに

Psychology, so dedicated to awakening human consciousness, need to wake itself up to one of the most ancient human truths: we cannot be studied or cured apart from the planet.

James Hillman 1

人間の意識を覚醒することに専念してきた心理学は、太古の人間真理のひとつに気づく必要がある。私たちを惑星から切り離して研究することも、また治癒することもできないということに。                

 エコサイコロジー (Ecopsychology) とは、その名が示すとおり、エコロジーecology:生態学)とサイコロジー(psychology:心理学)を統合した新興の学際分野である。アメリカの歴史学者、セオドア・ローザック (1992) が「心理学的なものと生態学的なものの間にある、われわれの文化が作った長年にわたる歴史的な深い淵に橋を架ける」ために発案した造語である。この2つの分野を統合する試みには、「心理学のエコロジー化 (ecologizing psychology) 」と、「エコロジーの心理学化 (psychologizing ecology) 」という両義的な基本前提がある。

 ローザック (1992, 1995) は、従来の心理学やサイコセラピー(心理療法)が扱ってきた範囲は個人、家族、社会など人間社会に限定されており、人間以外の生き物や自然の世界がその対象から欠落していること批判し、心理学の理論と実践の概念をエコロジカルな文脈で捉えなおすことが不可欠であると主張する。また、環境保護運動は活動の重点を組織化、教育、扇動することに置き、環境に対する人間心理の複雑さについて考慮してこなかった点について批判する。脅したり、罪悪感を植えつけることではなく、「新しい心理的な感受性」が環境保護運動に不可欠であるという。この両分野がそれぞれ欠いている部分を互いに補い合って統合するものがエコサイコロジーだといえる。

 惑星規模で展開される環境破壊は、ローザックが言うように、私たち人間の日常生活の精神病理である。現在、私たちは人間と自然との関係を問い直し、再び自然との結びつきを取り戻すための転換期に生きている。エコサイコロジーが、私たちの進むべき道すじを示してくれることを筆者は信じている。


 このブログでは、日本ではまだ普及していないエコサイコロジーの理論と実践や、エコサイコロジーと関連する分野を紹介していきたいと思う。


1. Hillman 1995, p. xxii


参考文献

Hillman, James (1995) . A Psyche the size of the Earth: A psychological foreword. In T. Roszak, M. Gomes, and A. Kanner (Eds.), Ecopsychology: Restoring the earth, healing the mind (pp.xvii - xxiii). San Francisco: Sierra Club Books.

Roszak, Theodore (1992/2001). The Voice of the earth: An exploration of ecopsychology (2nd ed.) Grand Rapids, MI: Phanes Press.

Roszak, Theodore (1995). Where psyche meets Gaia. In T. Roszak, M. Gomes, and A. Kanner (Eds.), Ecopsychology: Restoring the earth, healing the mind (pp.1-17). San Francisco: Sierra Club Books.



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