エコサイコロジーの原則

 セオドア・ローザックは『The Voice of the Earth (邦題:地球が語る)』(1992 / 2001)でエコサイコロジーの原則を以下のように挙げている。1

  1. 「心の核心はエコロジカルな無意識である。エコサイコロジーからすると、工業社会に見られるなれあい的狂気は、エコロジカルな無意識の抑圧に深く根ざしている。エコロジカルな無意識との自由な行き来こそ、健全さへの道である。」

  2. 「エコロジカルな無意識の中身は、ある程度、心性のなんらかのレベルにおいて、はるか昔の時間史の初期条件まで遡る、宇宙進化の生きた記録を象徴している。」

  3. 「エコロジカルな無意識に内在する、環境との本来的な相互依存感覚を目覚めさせること」は可能であり、それによって「人と自然環境との間に生じた、もっと根底的な疎外関係」は治癒される。

  4. 「新生児の魔法を秘めたような世界に対する感覚においてこそ…エコロジカルな無意識は再生してくる。機能的に〈健全な〉大人において、子どものもつ生得的なアニミズム的経験の質を回復すること」と「エコロジカルな自我の創出」をエコサイコロジーは目指している。

  5. 「エコロジカルな自我は、地球に対する倫理的責任感に向かって成熟をとげる。それは、他者に対する倫理的責任感として生き生きとした形で体験されるものである。エコサイコロジーは、この責任を織りあげて、社会的諸関係と政治諸決定という布地をつくりだす。」

  6. 「自然を、あたかも自分たちとは別物の、なんの権利もない領域であるかのようにみなし、それを支配することを私たちにけしかける、ある種の強制的な〈男性的〉性向の痕跡」がある。その男性的性向を洗いなおす必要がある。

  7. 「小さなスケールの社会的形態と、個人の権力の強化に資することはなんであれ、エコロジカルな自我の糧となる。(その一方で)大きなスケールの支配と、個人性の抑圧を目指すものはなんであれ、エコロジカルな自我を阻害する。したがってエコサイコロジーは、組織化のありようが資本主義的であれ集団主義あれ、現代のあらゆる巨大な都市的・工業的文化の本質的な意味での健全さに、深い疑問を呈する。…エコサイコロジーの社会的志向は、工業的なるものを超越することであり、それに敵対することではない。」

  8. 「地球が必要としていることは、人が必要としていることでもある。人の権利は、地球の権利でもある。」

 ローザックはこれらの原則を単なるガイドだと述べており、他のエコサイコロジスト達によってさらに発展されることを期待していた。彼がこのオリジナルの原則を提唱してから2年後、『エコサイコロジー・ラウンドテーブル』のメンバーによって以下つの原則が付け加えられたHibbard, 2003

  1. 地球は生けるシステムである宇宙の一部であり、地球自体もまた生けるシステムである。

  2. 人類、人類の成果および文化は、そのシステムの欠くことができない必須のものである。

  3. システム全体とその全ての部分の健康には、部分同士の間、また部分と全体との間に調和のとれた、持続可能で、相互に育成しあう関係が必要とされる。

  4. 〈身体的〉かつ〈心理的〉な次元を含む健全な人間の発達には、人間と人間以外の世界の形態との相互関連性や相互依存性が含まれなければならない。

  5. 人体や部分の核にある、私たちが〈魂〉(psyche) と呼ぶものは、生けるシステムである地球の他の形態と共進化するにつれて、私たちの内部に保存されてきた情報である。エコロジカルな無意識と呼ばれているエコロジカルな知性は、人間と自然の結びつきに関する〈理解〉の貯蔵庫のようなものである。2

 これら13からなる原則がエコサイコロジーの核となる原則だと考えられる。


〈註〉

1. Roszak 1992 / 2001, pp. 320-321. 木幡訳の日本語版を参照。訳者は「ecopsychology」を「生態学的心理学」、「ecological」を「生態学的」と訳しているが、筆者は「エコサイコロジー」、「エコロジカルな」に変更している。ここに紹介した原則は要約したものであり、全文はこちらを参照のこと。

2. Ecopsychology Roundtable. 1994. Statment of Purpose for an Ecopsychology Conferense. Unpublished draft. Center for Psychology & Social Change at Harvard Medical School. (Hibbard 2003, p. 40より引用


〈参考文献〉

Hibbard, Whit (2003). Ecopsychology: A review. The Trumpeter 19(2): 23-58

Roszak, Theodore (1992 / 2001). The voice of the earth: An Exploration of ecopsychology (2nd ed.). Grand Rapids, MI: Phanes Press.― 木幡和枝訳『地球が語る-宇宙・人間・自然論』(ダイヤモンド社1994)


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