「エコサイコロジー」という用語とそのヴィジョンが初めて公的に定義されたのは、1992年に出版されたセオドア・ローザック(Theodore Roszak)著の『The Voice of the Earth』においてである。そして、その3年後の1995年に出版された26編のエッセイからなるアンソロジー、『Ecopsychology: Restoring the Earth, Healing the Mind』(Roszak, Gomes, and Kanner 編)によって、エコサイコロジーは新しい学問分野としての存在を確立したといえるだろう。ところが、ローザックによるエコサイコロジーの提唱以前にも、環境危機の心理的原因について洞察を深めてきた人物は数多く存在している。したがって、いつ、誰によって最初にエコサイコロジーの発想が生まれたのかを特定することは難しい。
しかし、命名者であるローザック自身が「最初のエコサイコロジストであり、環境保護運動において、心理学の範疇を私たちの手による惑星の治療に適用した最初の思想家」1と評している人物は、人間生態学者のポール・シェパード(Paul Shepard)である。人間心理と人間による環境破壊行動の相互作用について論じたシェパードの著作『Nature and Madness』(1982)は、エコサイコロジーのパイオニア的研究だと言われている。またローザックは、初期からエコサイコロジーの展開に参与し、以前から関連した多数のエッセイの執筆や、カリフォルニア統合学研究所(California Institute of Integral Studies)で関連した授業を行っていた心理学者のラルフ・メツナー(Ralph Metzner)をエコサイコロジーの創設者の一人とみなしている(Hibbard, 2003)
もう一人の記すべき人物は、1960年代に「サイコエコロジー (psychoecology)」という概念を提唱したロバート・グリーンウェイ(Robert Greenway)である。グリーンウェイは大学でエコロジーを学び、その後マズロー(Abraham Maslow)のライターとして人間性心理学や後のトランスパーソナル心理学の興隆に携わる中、「心は自然であり、自然は心である」という確信を持ち、そこからサイコエコロジーの概念が生みだされた。彼は1968年にカリフォルニアのソノマ州立大学で、サイコエコロジーやトランスパーソナル心理学を教え始めた。それから20年後の1989年に、グリーンウェイの教え子だったイラン・シャピロ(Elan Shapiro)がバークレイでサイコエコロジーのディスカッショングループを結成し、グリーンウェイ、アラン・カナー(Alan Kanner)、メアリー・ゴメス(Mary Gomes)らと隔週で集まり、人間と自然の関係や心理療法がいかにして人間と自然の分離した関係を治癒することができるのかなど、様々なトピックについて議論したという。そしてローザックも後にそのグループへ参加することになった。ここでの議論がローザックのエコサイコロジーの提唱につながっているといえるだろう(Greenway, 2000; Schroll, 2007)。
エコサイコロジーは、ローザックによる提唱からいまだ十数年で、その歴史は浅く、今後の発展が望まれる。しかしエコサイコロジーの源泉となっているものは多岐にわたり、歴史的にみればそれは太古まで遡ることができるだろう。そうしたエコサイコロジーのルーツに関してはまた別の項で論じてみようと思う。
〈註〉
1.The Ecopsychology Newsletter 6 (1996, fall), p.11. (Hibbard, 2003, p.27より引用)他にもローザックは、近代生態学の創始者で『相互扶助論』を説いたクロポトキン(Prince Peter Kropotkin)や、アナーキストでゲシュタルトセラピーの創設者でもあるグッドマン(Paul Goodman)の、心理学とエコロジーを統合しようする試みから、彼らを最初期のエコサイコロジストと評している。
〈参考文献〉
Greenway, Robert (2000). Ecopsychology: A personal history.
http://www.ecopsychology.org/journal/gatherings/personal.htm
Hibbard, Whit (2003). Ecopsychology: A review. The Trumpeter 19(2): 23-58
Roszak, Theodore (1992 / 2001). The voice of the earth: An exploration of ecopsychology (2nd ed.). Grand Rapids, MI: Phanes Press.
Roszak, T., M. Gomes, and A. Kanner, eds. (1995). Ecopsychology: Restoring the earth, healing the mind. San Francisco: Sierra Club Books.
Schroll, Mark A. (2007). Wrestling with Arne Naess: A chronicle of ecopsychology's origins. The Trumpeter 23(1): 28-57
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