多くのエコサイコロジストは、人間と自然との関係の破滅的な不均衡が地球環境破壊の根本的原因のひとつであると考えている。ラルフ・メツナー (Ralph Metzner) は、著作『Green Psychology』(1999) の第6章『Psychopathology of the Human-Nature Relationship(人間-自然関係の精神病理)』で、医学や臨床心理学における様々な病理診断をメタファーとして用いて、人間がいかにして自然との病理的な疎外関係を生み出しているのか、またどのような治療法が考えられるかについて論じている。これから数回にわたって、メツナーの病理メタファーによる人間-自然関係の考察をレビューしていきたい。
病める生命圏 (The Ailing Biosphere)
現在の地球という惑星を医学的に診断すれば、以下のような2つの病を患っていると考えることができる。
1.悪性腫瘍 (malignant tumor)
悪性腫瘍は、無制限に増殖し、周囲の組織を破壊する異常細胞の集団である。地球をひとつの生命体と見るならば、人類や他の有機体はこの超生命体の細胞にあたる。今日、生態系の破壊を続ける人類の人口が生命圏のいたるところで加速度的に増え続けているさまは、まさに悪性腫瘍(がん細胞)の増加に例えることができるだろう。
この悪性腫瘍という病理メタファーを用いるのならば、実際のがん治療のように、病巣を取り除くこと、つまり人類を地球上から排除することが唯一の方法だという考えも浮上してしまう。しかし、このような考えは病理アナロジーの誤った解釈だとメツナーは言う。がん治療には他にも様々なアプローチがあって、例えば食事、ライフスタイル、態度、自己概念を改善することも効果的な治療法である。また、がん細胞が増殖を止めることで組織が健康状態へと戻ったり、免疫システムが病原菌の数を許容可能なレベルまで下げるという自然完解 (spontaneous remission) の事例が数多く報告されている。こうした過度の増殖を防ぐ自然の抑制メカニズムは再活性されうる。このことは、個人が自覚して人口再生産率を制限することや、コミュニティが自覚して都市の無秩序な拡大に境界を設けることに類比することができるかもしれない。
2.寄生体感染 (parasitical infection)
ガイア理論で知られるジェームズ・ラヴロック (James Lovelock) は、地球の生態系やエネルギー循環の構造や機能の科学を『地球生理学』として確立することを主張しており、地球の様々な症状を診断している。例えば、地球温暖化は「二酸化炭素による発熱」であり、酸性雨などの汚染は「酸による消化不良」と診断される (1988)。とりわけラヴロックが気に入ってる診断は、地球がホモ・サピエンスという種の寄生体に感染しているというものである。ラブロックは寄生体とホスト(宿主)の関係には以下の4つの起こり得る結果があると指摘する (1991)。
- ホストの免疫システムによって寄生体は撲滅される。
- ホストと寄生体は長期の消耗戦に入る。(慢性的な感染状態)
- 寄生体はホストを破壊し、自らの生命維持も失う。
- 寄生関係は相利共生 (mutualism)、あるいは共生 (symbiosis) 関係へと変化する。
4つめの共生関係へと進むことが最も望ましいシナリオである。共生が成立すればホストにも侵入者にも相互利益のある長続きする関係が保たれる。自然界には様々なスケールでこの種の共生関係へと至った前例がいくつもある。しかし、人間には賢明に行動してガイアとの共生を達成するのを困難にする生得的特性がある、とラヴロックは付け加えている 。
〈参考文献〉
Lovelock, James (1988). The ages of Gaia: A biographyof our living earth. NY: W.W. Norton and Co.-スワミ・プレム・プラブッダ訳『ガイアの時代:地球生命圏の進化』(工作舎,1989)
Lovelock, James (1991). Healing Gaia: Practical medicine for the planet. NY: Harmony Books.-糸川英夫監修『ガイア-生命惑星・地球』(NTT出版,1993)
Metzner, Ralph (1999). Green psychology: Transforming our relationship to the earth. Rochester, VT: Park Street Press.
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